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東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)6725号 判決 1971年12月11日

主文

一、被告人I、同Jをいずれも懲役一年八月に、被告人Lを懲役一年四月に、被告人Kを懲役一年二月に、被告人E、同H、同G、同Dをいずれも懲役一年に、被告人B、同C、同Fをいずれも懲役一〇月に、被告人Aを懲役八月にそれぞれ処する。

二、未決勾留日数のうち、被告人Iに対し三〇〇日、被告人Jに対し三四〇日、被告人Lに対し二二〇日、被告人Kに対し三〇〇日、被告人Eに対し七〇日、被告人Hに対し二二〇日、被告人Gに対し二六〇日、被告人Dに対し三二〇日、被告人Bに対し一五〇日、被告人Cに対し一〇〇日、被告人Aに対し一六〇日をそれぞれその刑に算入する。

三、この裁判が確定した日から、被告人K、同Dに対してはいずれも三年間、被告人H、同G、同B、同C、同F、同Aに対してはいずれも二年間、それぞれ右の各刑の執行を猶予する。

四、訴訟費用は、別紙訴訟費用負担明細表のとおり、被告人らの負担とする。(省略)

理由

(犯罪事実)

被告人らは、佐藤総理大臣がアメリカ合衆国を訪問するのを阻止しようと企て、

第一、被告人Aは、約二〇名の学生らと共謀のうえ、昭和四四年一一月一六日午後六時四〇分ごろ、東京都大田区東矢口一丁目一八番先の東京急行電鉄株式会社池上線の池上九号踏切線路付近で、被逮捕者らを護送する任務に従事していた警視庁第七機動隊の警察官約二〇名に対し、石塊を投げつけて暴行を加え、

第二、被告人B、同Cは、約三〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後六時一〇分ごろ、前記の場所で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約一四〇名に対し、多数の石塊・火炎びんを投げつけて暴行を加え、

第三、被告人D、同Eは、約三〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後六時一五分ごろ、判示第一記載の場所で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約一四〇名に対し、多数の石塊・火炎びんを投げつけて暴行を加え、

第四、被告人Fは、約五〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後五時四〇分すぎごろ、同区西蒲田七丁目一七番一号所在の前記池上線蓮沼駅北側の池上一〇号踏切付近路上で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約七〇名に対し、多数の石塊を投げつけて暴行を加え、

第五、被告人Gは、約三〇名の学生らと共謀のうえ、判示第四の日時場所で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約七〇名に対し、多数の石塊を投げつけて暴行を加え、

第六、被告人Hは、約三〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後六時一五分ごろ、判示第四記載の場所で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約七〇名に対し、多数の石塊・火炎びんを投げつけて暴行を加え、

第七、被告人Iは、

(一)  約四〇〇名の反戦青年委員会に属する者らが、警備に従事する警察官の身体などに対し共同して危害を加える目的で、凶器として多数の石塊を携えて、同日午後五時まえごろ、同区池上六丁目三番一〇号所在の前記池上線池上駅まえで四個のてい団を編成して集団を組み、同所から同区東矢口一丁目一四番付近路上まで進出した際、右凶器の準備があることを知って、右集団の第四てい団の指揮者として同てい団の先頭部に位置し、笛を吹き、あるいは肩車に乗って近くにいた二、三〇名の者に対し「前方に機動隊がいる。われわれは、この機動隊を突破して蒲田まで行こう。投石隊はまえへ。」などと号令し、それらの者を指揮・誘導して集合させ、

(二)  約四〇〇名の者と共謀のうえ、同日午後五時すぎころ、同区東矢口一丁目一四番付近路上で、違法行為の制止および違法行為者の検挙の任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約一〇〇名に対し、多数の石塊を投げつけたり、殴打したりして暴行を加え、

第八、

(一)  被告人J、同Kは、約三〇〇名のいわゆる反戦高協に属する学生らが、警備に従事する警察官の身体などに対し、共同して危害を加える目的で、凶器として、多数の火炎びん・鉄パイプ・角材・石塊を携えて集団を組み、同日午後八時まえごろから同日午後八時二〇分ごろまでの間、同区下丸子三丁目七番所在の前記会社目蒲線下丸子駅付近から同区下丸子一丁目七番一号付近道路および同区矢口二丁目一三番地一一号先の通称今泉交差点を経由して同区矢口二丁目二七番先路上まで進出した際、被告人Jにおいて角材一本を、被告人Kにおいて火炎びん一本をそれぞれ携え、凶器を準備して右の集団に加わって集合し、

(二)  被告人Jは、約三〇〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後八時一三分ごろから同日午後八時三〇分ごろまでの間、前記今泉交差点付近および同区矢口二丁目二七番先道路を経由して同区矢口二丁目一四番先路上にいたるまでの間で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第二、第五機動隊の警察官約一四〇名に対し、火炎びん・石塊を投げつけたり、角材で殴打したりして暴行を加え、

(三)  被告人Kは、約三〇〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後八時一三分ごろから同日午後八時二二分ごろまでの間、前記今泉交差点付近から同区矢口二丁目二七番先路上にいたるまでの間で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第二、第五機動隊の警察官約一四〇名に対し、火炎びん・石塊を投げつけたり、角材で殴打したりして暴行を加え、

第九、被告人Lは、

(一)  警備に従事する警察官の身体などに対し、多数の学生らと共同して危害を加える目的で、同日午後四時すぎごろから同日午後四時一五分ごろまでの間、約一〇〇名のいわゆる中核派第一軍団に属する学生らと集団をなして、同区西蒲田七丁目一七番一号所在の前記池上線蓮沼駅付近から同線の線路ぞいに同線蒲田駅付近および日本国有鉄道蒲田駅西口を経由して同区蒲田五丁目一番先の蒲田交差公園付近にいたる間で、右の者らとともに多数の火炎びん・角材・石塊を携え、兇器を準備して集合し、

(二)  前同様の目的で、同日午後四時二三分ごろから同日午後四時三〇分ごろまでの間、約三〇〇名のいわゆる中核派第一、第三軍団などに属する学生らと集団をなして、同区蒲田四丁目一八番先の日本国有鉄道京浜東北線、東海道本線軌道上付近から同軌道上を経て同区西蒲田七丁目の同鉄道蒲田駅西口広場付近にいたる間で、右の者らとともに多数の火炎びん・角材・鉄パイプ・石塊を携え、凶器を準備して集合し、

(三)  約三〇名の学生らと共謀のうえ、同日午後六時一〇分ごろ、判示第一記載の場所で、学生らの違法行為の制止および違法行為者の検挙などの任務に従事していた警視庁第四機動隊の警察官約一四〇名に対し、多数の石塊・火炎びんを投げつけて暴行を加えた。

(証拠)≪省略≫

(被告人Iに対する凶器準備集合罪について)

被告人Iに対する判示第九の(一)、(二)の各凶器準備集合罪については、事実関係について同被告人が黙秘しているので、これを直接に証明する証拠としては、右各犯行現場の写真(そのなかに、同被告人の顔の部分を正面から撮影したもの、および全身を側面から撮影したものが含まれている。)とこれを引き伸ばした一一・一六事件現場写真帖があるだけであるが、当裁判所は、十数回にわたる公判期日に出頭した同被告人の顔つき・姿態を親しく、つぶさに観察した結果、同被告人と前記の各現場写真のなかの被告人大内と目されている人物とは同一人物であると認定する。(当裁判所が公判廷において、同被告人に対し、右の各現場写真を示して弁解を求めたところ、同被告人はことさらに答を避けて、無関係な発言をくり返し、写真に撮影されている人物が自分であることを争おうとする態度に出なかったことも見のがすことのできないところである。)

なお、当裁判所としては、検察官の申請により、念のため、右の各現場写真のなかの被告人Iと目されている人物と逮捕された直後に写真撮影された同被告人との同一性について鑑定を求めたのであるが、鑑定の結果は「類似」(五段階の判定基準のうちの中間)ということであった。しかしながら、この鑑定結果は、現場写真の鮮明度が必ずしも十分でなかったことや、写真に撮影された人物の顔は一部しか見えないので顔の輪郭の線による比較・対照ができなかったこと、さらに、体つき・姿態の比較・対照も資料の関係からできなかったことなどの事情のため、主として着用していたヘルメットとその前面に書かれた文字などをもとにして出された結論であることを考えると、当裁判所の同一人物であるという前記の心証を左右するほどの意味をもった鑑定とは認められない。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、(イ)検察官は、本件各被告人らの行為を個別的にとらえて、凶器準備集合罪あるいは公務執行妨害罪などで個別的に公訴を提起したが、本件は数百名の集団が佐藤首相訪米阻止という一つの目的に向けてなした集団的行為であって、本来、騒擾罪として起訴すべきであったのである。そして、本件被告人らは、いずれも、付和随行者にすぎないのであるから、刑法上は、もともと罰金刑によってのみしか処断しえないものである。したがって、本件は、起訴の手続において、訴因の構成、罰条の選択が誤っているので刑事訴訟法三三八条四号により、いずれも公訴を棄却されるべきである。(ロ)佐藤首相が訪米して沖繩返還について協議することは、わが国がアジアにおけるアメリカ合衆国の軍事力の一部を肩代わりすることを意味し、また同国の帝国主義・軍国主義の一翼をになうことになる。したがって、被告人らは同首相の訪米を実力で阻止し、わが国が再び軍国主義に逆戻りしないようにし、その国益を守るため、やむことをえずして本件に及んだのであるから、右は緊急避難として犯罪は成立しない、と主張する。

しかしながら、(イ)本件において騒擾罪が成立するかどうかはさておき、検察官が、被告人らの本件各行為は公務執行妨害罪などにあたるとして公訴を提起したことについては、なんら違法な点は存しないし、(ロ)かりに国益と総称されるものについて緊急避難の成立を認めうるとしても、被告人らが主張する危難とは、要するに、首相の訪米の性格やその影響について存したさまざまな見解のうち、被告人らの立場からみた一つの見解にすぎず、当時、国益に対する現在の危難があったとは認められない。弁護人の主張はいずれも採用しない。

(確定裁判)

被告人Dは、昭和四五年九月二二日横浜地方裁判所で凶器準備集合罪により懲役四月(執行猶予一年)に処せられ、右裁判は同年一〇月七日確定したものであって、右の事実は検察事務官作成の判決書謄本によって明らかである。

(法令の適用)

被告人らの公務執行妨害の行為はいずれも刑法六〇条、九五条一項に、被告人Iの判示第七の(一)の行為は同法二〇八条の二の二項に、被告人J、同Kの判示第八の(一)および被告人Lの判示第九の(一)、(二)の各行為はいずれも同法二〇八条の二の一項、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれあたるので、判示第七の(一)を除くその余の各罪については、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人Iの判示第七の(一)、(二)、同Jの判示第八の(一)、(二)、同Kの判示第八の(一)、(三)、同Lの判示第九の(一)、(二)、(三)は、いずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により被告人Iについては犯情の重い判示第七の(二)の罪の刑に、同Jについては重い判示第八の(二)の罪の刑に、同Kについては重い判示第八の(三)の罪の刑に、同Lについては最も重い判示第九の(三)の罪の刑に、それぞれ法定の加重をし、被告人Dの判示第三の罪は前記確定裁判のあった凶器準備集合罪と同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条により、まだ裁判を経ない判示の罪についてさらに処断することとし、以上の各刑期の範囲内で被告人らをそれぞれ主文一項のとおり量刑処断し、同法二一条により主文二項のとおり各被告人に対しそれぞれ未決勾留日数の本刑算入をし、情状により同法二五条一項を適用して主文三項のとおり同項掲記の各被告人らに対しその刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により主文四項のとおり各被告人らに負担させる。

(裁判長裁判官 小松正富 裁判官 安藤正博 平谷正弘)

<以下省略>

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